30万円のバイオリン弓を3本くらべてみました

30万円前後のバイオリン弓といえば

*大人サイズへの買い替え時に選ばれる

*入門者が弓の価値に気づいて2本目として選ぶ

*この先長く使えて確かな弓

*大学オーケストラ部内だったらちょっと自慢できる…

 

などと、いつの時代もお店でいちばん需要のたかい価格帯です

この価格帯であれば良質のペルナンブーコ材を使用しており自信をもってお勧めできますし、弓作家の個性が発揮できるカテゴリーです


さて今回は同時期に3本のバイオリン弓が入荷してきましたので

”弓選びの時、どこを見ればよいの?”

をポイントにご説明しようと思います

 

ご紹介するのは

手前:Daniela Finkelフィンケル(スイス)S/E

中央:J.P.Bernardベルナール(ベルギー)N/E

奥:Steffen KUHNLAクーンラ(ドイツ)S/E

【弓は見て選ぶもの】

びっくりするかもしれませんが、弓は”見るだけ”でもだいたいの音色のイメージがつきます

弓製作者は長年の経験と過去の作家の特徴から、製作者は3つのポイントを重視し、弓製作をしています

①フロッグ

②ヘッドデザイン

③棹のカーブ

最終的には”弾いてみないことには”とということになるのですが、

製作者のもの考えを逆算していくほうが自分にピッタリ合う弓が選べる、松脂のつき具合でごまかされない(笑)というのは理にかなっています

では、3つのポイントから3本の弓の特徴を見ていきましょう

【①フロッグ】

フィンケル(手前
典型的なペカットモデル。棹のカーブを大きく出すための大きめのフロッグ。弦にまとわりつくような重厚な音色を出すためのデザインが選ばれています

クーンラ(奥)
サルトリー系統の小ぶりなフロッグ。超絶技巧の曲に弓の反応が遅れないよう、全体に低重心で製作されています。音色はサクサクとした感じで現代的

ベルナール(中央)
ペカット寄りのオリジナルデザイン。音量を重視した設計でとにかく大きな音と発音の良さが目立ちます

*フロッグはドミニク・ペカットなど19世紀は大きめのものが主流でしたがA.LAMYラミーあたりから小ぶりなフロッグに移り、20世紀初頭E.SARTORYサルトリーによって低重心の弓デザインが確立されていきます

【②ヘッドデザイン】

フィンケル(中央)
フロッグとともに典型的なペカットモデル。角張ったハンマー斧をイメージさせる高くて大きなヘッド。アップボーでも力が抜けにくく安定した音色 フィンケルは伝統的に銀チップを使用

ベルナール(手前
やや小ぶりでぷっくり丸みを持たせたデザイン。常に弓毛にテンションを与えるために上向きの角度

クーンラ(奥)
サルトリーモデルの小ぶりで流線形のヘッド。弓先が軽く感じられる、長く演奏していても疲れないバランス

【③棹のカーブ】

ベルナール(手前
極端に先端寄りのカーブで、弓にテンションを与えるデザイン 3本のなかでいちばん密度の高い(高比重の)ペルナンブコ材を使用

フィンケル(中央)
3本のなかでいちばんセンター寄りでいわゆるペカットスタイルだったがこの弓はダニエラの世代になってセンターからやや先端寄りのカーブデザインに変更されており、父Johanessヨハネスとは若干キャラクターが異なる

クーンラ(奥)
サルトリーモデルらしいやや先端寄りのカーブ。 ”棹の腹”部分がシシャモの腹のようにぷっくりしている

*棹のカーブにも流行があり、19世紀は弓の中心にカーブのトップがあり、20世紀以降は弓の先端寄りにカーブのトップが来る傾向があります


つぎに

今回の3つのメーカーの略歴やスタイルについてご説明しましょう

【DANIELA S.FINKEL】ダニエラ・フィンケル
1887ドイツ・WEIDHAAS家から続く弓の名門で、父Johaness Finkelヨハネスフィンケルの代からスイスのブリエンツに工房を移し製作。ペカットスタイルのヘッド・シルバーチップ・フレンチポリッシュ仕上げとしっかりとしたアイデンティティがみられる

3パーツボタン・ダブルアイ・シルバーパーツ

刻印:D.S.FINKEL

税別280,000円

【STEFFEN KUHNLA】ステッフェン・クーンラ
1961年生まれ、1988年マイスター資格を取得し1990年に独立。個人製作で少量製作

2007年チャイコフスキーコンクールで賞を独占して、Kuhnlaは一気に世界的に有名に。

弓のスタイルはE.Sartoryを基本に彼なりの修正を加えたもの

親指の”当たり”をやわらげる左右非対称のフロッグの削りも、製作当初からの彼のアイデア

3パーツボタン・ダブルアイ・シルバーパーツ

刻印:STEFFEN KUHNLA

フロッグにSKのロゴ焼印

税別260,000円

【J.P.BERNARD BRUXELLES】ベルナール・ブリュッセル
ベルギー・ブリュッセルのメゾン・ベルナール工房による製作
ペカット・サルトリーなど従来の型にはまらない”ギヨーム・スタイル”と位置付けられており、やや先調子のカーブ・楽器を強く響かせるパワーは他メーカーにない特徴を持っています

共同オーナーの【J】Jan Strikヤン・ストリックと【P】Pierre Guillaumeピエール・ギヨームとの頭文字から銘づけられている

3パーツボタン・ノンアイ・ニッケルパーツ

刻印;J.P.BERNARD /裏面 BRUXELLES

税別250,000円

 

どうでしたか?

弓次第で演奏のしやすさが変わるだけでなく、音色そのものも変わるんですよ!

弓の材料・ペルナンブコ材はどんどん枯渇しているので弓は欲しくなったらなるべく早くお求め頂くようお勧めします!

 

ほかにもいろいろな作家の弓がありますので楽器と奏者との相性からベストの弓を選んで

みてくださいね

(文:松永)